例の乞食少年の旅立ちの図です――より正確には旅立たざるを得なかった図。
この男の子は普段は街に住んでおり,この日は気紛れを起こして外をほっつき歩いていたのでした――などと書くのは,農村で物乞いが発生し得るのか?という一人ツッコミのせいなのですが,わざわざ生活の場(しかも城壁が巡らせてあって,決して出入り自由というわけではない)を離れることも同じくらいありそうにない話のような気もします。
それは置いといて,彼はまた,あるとき棒で相手を突っつくことが非常に有効な防御手段であることに気がついて以来,常に棒を持ち歩き,使い方を工夫し,それを実地に試すチャンスを待ち構えているという少々危ない人でもあります。まあ,覚えたてのものごとは使いたがるものです。
で,この日彼は,女の子が村人に石を投げられているところに出くわしました。
女の子の背中からは大きな黒い翼が生えていて,「羽根が白かったらそんな目に遭わなかったかもなぁ……」などとぼんやり思いながら,さて石を投げる側につこうか逆に彼らを突つく側に立とうかについては迷うことはありませんでした。なんとなれば,彼も街では,よってたかって殴る方と殴られる方とでは必ず後者の立場に立たされるのであり,といってどちらの立場に立つか選べる場合があったとしても,幸いなことに――いや,彼にとって幸いかどうか私の容喙し得るところではありません――前者を選ばないだけの人のよさがあったからです。
でももしかしたら,その方が突つき甲斐があると考えただけかもしれません。
彼はたちまち3,4人ぶっ倒しました。そして,多勢に無勢大人に子供で同じようにたちまち追いつめられてしまいました。そのまま袋叩きに遭うのと女の子に首根っこ掴まれて引きずられるのとどっちがよかったか分かりませんが,とにかく彼は首根っこ掴まれ引きずられ半ば窒息しかけながら,その場を逃げおおせたのです――実はその場だけでなく,「魔女」を助け「魔女」に助けられたおかげであらゆる場所から逃げおおせなければならなくなったのですが。
……お・し・ま・い。